熊本大学大学院自然科学教育部ニュースレター 森と風

教員特集
                           
地球の内部を探ることで、地球の歴史や人類の起源が分かる。まさにロマンなんですね。 大学院先導機構 自然科学研究科併任 助教 中島 陽一
中島 陽一(なかじま よういち) プロフィール

2006年東京工業大学大学院理工学研究科地球惑星科学専攻修士課程修了、学術振興会特別研究員(DC1)、2009年東京工業大学大学院理工学研究科地球惑星科学専攻博士課程修了、東京工業大学大学院地球惑星科学専攻科学研究費教育研究支援員、Universität Bayreuth(ドイツ)、Bayerisches Geoinstitut特別研究員、2013年理化学研究所(埼玉県和光市)バロン物質ダイナミクス研究室特別研究員勤務を経て、2016年11月より現職に至る。

地球・惑星を理解することを目的に、高圧力下での物質のふるまいを研究しています。

Q:中島先生の研究テーマは?

「高圧物性、金属学、固体物理学、不規則系科学、放射光科学、地球物理学、地球科学を対象に研究を行っています。子供の頃は夜空を見上げるのが好きで、流れ星やハレー彗星の地球接近を眺めながら宇宙に憧れを抱き、いつか天文物理の研究者になりたいなと漠然と思っていました。東京工業大学理学部地球惑星科学科進学後に地球科学を学び始め、地球の深部についてまだ解明されていないことを知りました。地球の中心には “コア”と呼ばれる鉄でできた芯があります。このコアの中心は深さ6400kmにもなり360万気圧もの圧力がかかっています。つまり、自然界には私たちが地上で感じている重みである1気圧の360万倍もの圧力も存在しているわけです。面白いことに、圧力をかけると物質の状態はどんどん変化します。例えばダイヤモンドは1気圧下ではグラファイトという炭素からなる鉱物で、鉛筆の芯と全く同じものなんです。それに5万気圧程度の圧力をかけるとダイヤモンドになるんです。そういった、高圧下における物質のふるまいに非常に興味をそそられました。学生時代に特に興味を持っていたのが、マグマやマントルより深い、地球中心にある金属コアです。地上から2900㎞以上の深さにある金属で形成されたコアの物性を調べようと、とにかく実験をし、結果を理解するために勉強し、また実験をして研究に没頭していました」
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地球内部の高圧・高温状態を再現し、地震波との比較で地球の深部を解明する。

Q:地球中心部の謎はどのような実験方法で調べていくのでしょうか。

「マルチアンビル型高圧発生装置やダイヤモンドアンビル装置など、高圧力を印加する装置を使った実験です。波は物の振動です。物質にエックス線を当て、そこから出てくるエックス線を調べると物質中の原子の振動の速さが分かります。これを無限に繋げていったのが地震波です。物質を伝わる波の速度はそれぞれ異なるので、地球内部にありそうなものを地球内部と同じような超高圧・高温条件でどのような音速や密度を持っているのかを調べ、地震波が伝わる速度と照らし合わせることによって地球の内部を解明していきます。私が3年半在籍していた理化学研究所が所有する大型放射光施設SPring-8では、大変明るいX線とダイヤモンドアンビル装置を使って本格的な実験を行っていました。熊本に持参したのは、手のひらサイズのダイヤモンドアンビル装置です。先端が0.1㎜ほどのダイヤとダイヤの間に試料を挟んでぎゅっと押して実験を行う小さな装置ですが、最大で数百万気圧の高圧力をかけることができます。この試料に放射光施設のエックス線を当てると、試料の中の結晶構造や密度、それに音速が分かるのです」

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SPring-8(提供:理化学研究所)
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ダイヤモンドアンビル装置

Q:2015年に超高圧・高温状態の液体の金属合金に縦波が伝わる速度計測に成功。画期的な発見をされたということですが。

70年ほど前から論争されてきたことなのですが、地球のコアの外核には、90%の鉄と炭素やシリコン、硫黄などの軽い元素が存在していると言われてきました。高圧下で液体金属の物性を調べるのは大変難しいということで多くの研究者がなかなか手を付けられない未開の分野で、私が研究を始めた当初は10万気圧くらいまでしか分かっていませんでした。もちろんコンピュータ上で理論計算を行えば予想はつきますが、とにかく『実験してみないと分からない』というのが私のモットーでもあります。鉄と候補となる元素を混ぜた合金をダイヤで挟み圧力をあげ、レーザーで加熱して溶かし、最大で70万気圧、3000度の超高圧高温条件で音速を測定し、実際に地球のコアを地震波が伝わる速度を比較することによって、どれが一番近いかを調査しました。元素の種類だけでなく、量比を変えても音速は上下するので、少しずつ濃度を変化させつつ、時間をかけて根気強く、数多くの実験を重ねた結果、炭素とシリコンは該当せず、鉄に硫黄が溶けた合金が最も地震波に近いという結果を得ました。この実験結果は、地球誕生を探る大きなヒントとなります」
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研究は宝探し。新雪の上を歩くようなチャンレンジの連続。

Q:中島先生の研究は、社会のどのような分野で活かされていますか?

「地球内部の組成は46億年前の地球誕生の時に決まっていますから、それを調べていくことで地球の歴史や人類の起源の解明に繋がります。柔らかく黒いグラファイトに高圧力をかけると硬くて透明なダイヤモンドとなるように、圧力を加えることで、地上ではできない新規の材料を合成でき、それが医療や工業製品などの分野で役立つことも考えられます。最近は高機能な金属ガラスの実用化が進んでいます。こういった新しい物質がどうやってできるか、あるいはどんな方法で作られるかのヒントが、私が行っている液体金属の研究の中にあるかもしれません。高圧で作ったものがそのまま1気圧で直接使えるわけではないので実用性はないですが、それを突破口に新しい物質がどんどんできる可能性もあります。エックス線を使って原子を観察しているとそこには必ずヒントがあります。つまり、圧力をかけながら原子を観察することで普通では作れない物質もそのレシピも同時に得るチャンスが高圧実験には潜んでいます」

Q:今後やっていきたいことや目標はありますか?

「これからの第1目標は、100万気圧の超高圧下での液体金属の物性物理をつまびらかにすることですね。この圧力では物の体積は半分程度になります。そこでは液体が実際にはどんな状態なのかを知りたい。学生にも良く話しますが、私たちは言わばトレジャーハンターのようなものだと思うんです。実験を行う場合は仮説をたて、実際見えてきたものから次のターゲットを判断しながら進めます。まるで前人未到の新雪の上に歩を進めるようなもので、その先に何があるかは分かりませんし、仮説が間違っていて足を取られ研究が全然進まなかったり、方向を間違ったりして頓挫することも。とても地道で根気のいる作業の連続ですが、その先に起こる“なにか”こそ科学なんです。学生たちともそんな思いを共有しつつ、楽しみながら宝探しをやっていけたらと思っています」
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学内での実験はほぼ手作業。顕微鏡を覗きながら試料をセッティングし、手でねじを締めながら圧力をかけていく。

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100ミクロン(0.1㎜)ないほどの微細な試料をダイヤ同士で挟んで高圧力をかけ、レーザーを照射して高温を発生させる。