2022年度
農薬シーズ創出を目指した真菌由来の揮発性有機化合物の研究
天然物×画像解析による農薬・医薬・機能食品のシーズ探索
作物生産に関わる形質および成長制御物質に対する酸化グラフェンの効果
養殖魚の性統御における脂肪酸の影響とその影響メカニズムの解析
北野健x谷時雄x井手上賢
養殖魚においては、ウナギやヒラメのように雄より雌の方が成長が早い魚種や、トラフグのように
精巣に価値がある魚種が存在しており、それぞれ全雌生産および全雄生産の技術開発が
求められている(図1)。北野らは、脂肪酸受容体(PPARα)の活性化が雄化を引き起こすことを
明らかにしており、性統御における脂肪酸の利用が示唆されている。一方、谷、井手上らは、
脂肪酸の一つであるミリスチン酸が、生殖細胞特異的な細胞内構造体(nuage)の形成を阻害させる
ことを見出しているが(図2)、その詳細な分子機構は不明である。そこで本研究では、養殖魚の
性統御において脂肪酸が利用できるかどうか、その分子機構は何かを明らかにすることを目的に、
その第一歩として以下のテーマを実施する。
1. モデル魚であるメダカに脂肪酸を投与し、どの脂肪酸が雄化を引き起こすかを明らかにする
(北野担当)。
2. カイコ卵巣由来の培養細胞に様々な脂肪酸を投与し、培養細胞内のnuageを含む細胞内構造体の
変化を調べて分子機構を解析する(谷、井手上担当)。
これらの結果を総合して脂肪酸の影響メカニズムを明らかにし、実際に養殖魚に
利用できるかどうかを評価する。
世界初の分裂酵母焼酎/日本酒の製造:分裂酵母ジャポニカスKumadai株の育種開発
谷時雄x戸田敬x井手上賢
今まで醸造に使われたことがない分裂酵母ジャポニカスの
吟醸香高生産株を育種し、焼酎/日本酒の味や香りに今までにない
多様性を産み出し、世界初の分裂酵母焼酎/日本酒を製品化することを
目指す。谷/井手上で既に分離済みの吟醸香成分カプロン酸エチル
高生産株であるKumadai-T11号株を親株に、他の代表的な吟醸香で
あるβ-フェネチルアルコールや酢酸イソアミルを更に高生産する
多重変異株のスクリーニングを行う。得られた株の培養液について、
戸田研でガスクロマトグラフィーによる香気成分分析を実施し、
焼酎や日本酒、クラフトビールの醸造に適した株の選択を行う。
候補株の小仕込み試験等を熊本県産業技術センターで実施し、最終的に
醸造に適した株を同定する。熊本地域の酒蔵とも連携し、育種株による
世界初の分裂酵母焼酎/日本酒/クラフトビール製品化を目指す。
養殖魚性分化コントロールへのカイコの利用
新留琢郎x北野健
ヒラメやウナギの養殖において、雌への誘導がその市場価値を高める、あるいは、完全養殖に
おける重要な鍵となる。これまで北野らは、メダカの性分化に関わる分子メカニズムについて
明らかにしており、性分化を制御する脂肪酸受容体(PPAR)受容体の同定はもちろん、
関連する特定の脂肪酸を指摘している。
一方新留らは、カイコがつくるシルクタンパク質を使った医療材料の発を進めているが、
その中で、遺伝子組み換えカイコを作製し、繭やサナギ、幼虫の体液に組み換えタンパク質を
発現させる技術を構築している。
そこで本研究では、養殖魚の性分化をコントロールできる飼料としてカイコの幼虫あるいは
サナギが利用できないか、その予備的な試験を開始する。
1. モデル養殖魚としてメダカを使い、カイコの幼虫あるいはサナギがメダカの飼料となり
得るかを検討する。まずはペースト化、乾燥粉末化が想定される。
2. 性決定を制御するであろう脂肪酸の割合を調整したカイコ飼料をメダカ稚魚に投与し、
メダカの性分化への影響を評価する。